コラムcolumn

骨の劣化は命を削る

骨粗鬆症は命に関係ないと思われるかもしれませんがそうとも限りません。

病気が進行してもほとんど自覚症状がないうえ、「骨折のリスクが高まる」といわれても危機感を持ちにくいせいか、軽く見る人も少なくありません。

*55歳から81歳の女性6459人を3.8年追跡調査した米国の研究結果。各骨折による死亡リスクを比べると、年齢やもともとの健康状態、併存疾患の有無を調整しても、脊椎椎体骨折と大腿骨近位部骨折後の死亡リスクが高かった。

・骨粗しょう症の人は骨折後、心血管疾患を発症しやすい

大腿骨近位部(頸部)骨折をした人を追跡した結果、その死因で最も多かったのが心臓病(24.0%)、次いで肺炎(21.7%)、脳血管疾患(16.2%)でした。

またそれらの病気の中でも1年以内に死亡した人が13.8%と最も多く、骨折後、急激に衰え亡くなってしまう人も少なくなかった。

 骨はカルシウムやリンなどミネラルの貯蔵庫です。骨を作る骨形成よりも骨を破壊する骨吸収が高まってしまうと骨粗しょう症になるわけですが、そうなると、血液中にカルシウムやリンが溶け出します。その機序は十分には解明されていませんが、骨粗しょう症では血管の壁を厚くして動脈硬化が進んでしまいます。つまり、骨粗しょう症が進行すると、心臓病や脳血管疾患を起こしやすい状態になってしまうのです

・骨の強さは骨密度だけで決まるわけではない

 「骨粗しょう症=骨密度の低下」と考えている人も多いかもしれないが、実は、骨の強さは、骨の量を表す骨密度だけではなく、骨の質(骨質)にも左右される

 「骨の強さ=骨密度+骨質」というわけです。骨密度は骨に含まれるカルシウムなどミネラルの量、骨質は骨の中のコラーゲンの状態や微細な亀裂がないかなど骨の構造を表す。そういわれてもイメージしにくいかもしれないが、骨を鉄筋コンクリートの建物に例えると、コンクリートに相当するのがカルシウムなどのミネラルで、鉄筋に当たるのがコラーゲンなどだ。鉄筋コンクリートの建物は大きな地震が来ても崩れにくいが、それは鉄筋がしなって衝撃を吸収するため。骨の中のコラーゲンはその鉄筋のような役割を担い、骨質を高めている。

 近年、骨粗しょう症には、

①骨密度のみ低下している低骨密度型
②骨質のみ低下している骨質劣化型
③骨密度も骨質も低い低骨密度型+骨質劣化型

と3つのタイプがあることが分かってきました。

男性の場合、骨質劣化型の骨粗しょう症が多く、体格が良くても骨折しやすい状態になっていることも少なくない。骨密度が高くても骨質が低ければ骨折しやすくなる。

・骨粗しょう症と診断されたら、どう治す、治せない

 骨粗しょう症は、初期の段階では症状がでません。

 背中が曲がる、身長が縮む、重い物を持ったときに痛みを感じるなどの症状が表れたときには、かなり骨粗しょう症が進行しています。骨粗しょう症と診断されるような状態になったら、運動や食生活の見直しだけで骨折を防ぐことは難しく、薬物療法が必要です。

 ただし、骨粗しょう症と診断される状態になった後でも、運動や食生活の見直しをすれば骨密度の低下を遅らせることはできます。

・骨粗しょう症を避けたい人がすべきこと

命に関わることもある骨折を避けたいと考えるなら、まずは骨粗しょう症検診を受けてみましょう

ですが、2022年度の受診率は全国平均で5.5%と非常に低率で、都道府県による差も大きい。

2015年度の骨粗しょう症検診受診率と、大腿骨近位部骨折の主な手術治療である人工骨頭挿入術を受けた人の割合の関係を調べた研究では、検診率が低い都道府県ほど人口10万人当たりの人工骨頭挿入率が高いことが分かっています。

(荻野 浩 先生 文献参照)