年齢を重ねるにつれ、「最近、物忘れが増えたかも」「体力が落ちてきたな」と感じることは自然なことです。しかし、「もう歳だから」と諦める必要はまったくありません。近年の脳科学や医学の研究では、私たちの「脳」も「骨」も、適切な刺激を与えることで何歳からでも健やかに保てることが分かってきています。
今回は、認知症予防と骨粗鬆症対策という、シニア世代の健康を支える2大テーマを「運動」というキーワードで結びつけ、その重要性をお伝えします。
目次
1. 運動は脳を若返らせる:認知機能維持へのアプローチ

「運動をすることは、単に体を強くするだけでなく、認知機能を成り立たせる根源的な要素である」と、言われています。
研究によると、高齢者の「歩く速さ」と、加齢とともに低下しやすい「視覚的ワーキングメモリ(位置や顔の記憶)」の間には、密接な相関関係があることが分かっています 。
つまり、日常的にてきぱきと速く歩くこと自体が、脳の記憶力を守るリハビリになっているのです 。
さらに、ただ体を動かすだけでなく、「※頭を使いながら体を動かす(デュアルタスク運動)」を行うと、脳の司令塔である「前頭前野」の容積が増え、高齢期における脳の萎縮に立ち向かえる(脳の可塑性)ことも証明されています 。
※歩行+しりとり、歩行+文字列逆復唱 等
2. 骨も運動を待っている:骨粗鬆症予防における運動
脳が運動による刺激を求めているのと同様に、私たちの「骨」もまた、動かされることを待っています。
骨粗鬆症は、骨密度が低下して骨がもろくなり、骨折しやすくなる病気です。骨を強くするためにカルシウムを摂ることは有名ですが、それと同じくらい重要なのが「骨への物理的な刺激(負荷)」です。
骨は、体重がかかったり、筋肉が引っ張られたりする刺激を感知すると、その負荷に耐えられるように自らを強く作り直す性質を持っています。

ウォーキングやステップ運動のように、地面をしっかり踏みしめて重力を受ける運動は、骨密度を維持・向上させるために不可欠なのです。
3. 「脳」と「骨」の連動:転倒・骨折から認知症へのドミノを防ぐ
なぜ、認知症対策と骨粗鬆症対策をセットで考える必要があるのでしょうか? それは、高齢期における「骨折」が認知症を発症・悪化させる最大の引き金(ドミノ倒し)になり得るからです。
恐怖のドミノのメカニズム
1. 歩行速度やバランス能力が低下する
2. 骨粗鬆症で骨がもろくなっているため、転倒した際に大腿骨(太ももの付け根)などを骨折する
3. 手術や入院で動けない期間が続く(寝たきり状態)
4. 脳への活動刺激(歩行などによる刺激)が完全に途絶え、認知機能が一気に低下する

日本人の調査では、歩行速度が最も遅いグループは、最も速いグループに比べて軽度認知障害(MCI)の有病率が男性で1.75倍、女性で2.02倍も高いことが分かっています 。 てきぱきと歩く、あるいはステップを踏むといった運動は、脳のワーキングメモリを刺激しつつ 、同時に骨を強くし、転倒しにくい筋力とバランス力を養うという、一石三鳥のアプローチなのです 。
なぜ、認知症対策と骨粗鬆症対策をセットで考える必要があるのでしょうか? それは、高齢期における「骨折」が認知症を発症・悪化させる最大の引き金(ドミノ倒し)になり得るからです。
4. 今日から始める、脳と骨を喜ばせる趣味選び
人生の後半戦、どのような運動を取り入れるのがベストでしょうか? 研究成果から、以下のポイントが見えてきます 。
- 「ダンス」で脳と骨を同時に刺激する
- 週1回のダンスレッスンを3カ月続けた研究では、幸福ホルモン「オキシトシン」が上昇し、脳のネットワーク活性化や無気力感の改善が見られました 。振り付けを覚える(脳トレ)と、音楽に合わせてステップを踏む(骨への刺激・バランス訓練)が合わさった理想的なハイブリッド運動です 。
- インプットから「アウトプット」へ
- ただ音楽を聴くだけ、本を読むだけでなく、自分で楽器を演奏したり 、カラオケで歌詞を見ずに歌ったり、運動のサークルに参加して仲間と会話したりする「アウトプット」を伴う活動が、脳のワーキングメモリをフルに活用させます 。
5.まとめ
「もう遅すぎる」ということはありません 。
今日から少しだけ歩幅を広げててきぱき歩いてみる、あるいは音楽に合わせて体を動かしてみる。そんな一歩が、あなたの脳の可塑性を引き出し 、もろくなりやすい骨を支えます。100年元気に生きるために、頭と体を心地よく使う「新しい挑戦」を始めてみませんか?
京都大学名誉教授 積山薫氏文献参照