みなさんは、高血圧ではその後の心疾患や脳疾患を不安におもわれ、お薬をちゃんと飲む習慣になっていると思います。それに比べて骨粗しょう症はまだその後の重大さのイメージが薄く、検査もしない、お薬も飲まない、気をつける事もしない方が多いのではないでしょうか。
しかし、統計的には骨粗しょう症はその後の健康寿命に大きく影響する事が知られています。
現在の超高齢化社会、今一度「骨粗しょう症」を考えてみて、必要なら治療しましょう。

骨粗しょう症とは

これはテレビその他で一度は聞いた事がある病名ではないでしょうか。
骨は一見すると固い組織ですが、実は常に新陳代謝を繰り返えしています。
古い骨が壊され新しい骨が作られることで、しなやかで丈夫な骨が保たれます。約3年から5年で全体の骨が入れ替わります。
健常な骨では、このバランスが保たれており。骨量や骨の質が維持されます。
しかし、このバランスが崩れ、骨吸収が骨形成を上回ると、骨密度が低下し骨がスカスカになってもろくなる病気が骨粗しょう症です。
骨粗しょう症からおこりやすい骨折

骨がもろくなると、ちょっとした転倒でも骨折しやすくなります。特に高齢者の方に多いのが、大腿骨近位部骨折(太ももの付け根の骨折)、脊椎圧迫骨折(背骨の骨折)、橈骨遠位端骨折(手首の骨折)などです。
特に注意すべきなのが大腿骨近位部骨折、脊椎圧迫骨折です。
・大腿骨近位部骨折


高齢者に多く、転倒により起こりやすい骨折です。
骨折すると歩けなくなり、手術や長期入院、リハビリが必要になることが多いです。
長期の寝たきり状態や活動量の低下は、肺炎や深部静脈血栓症などの合併症を引き起こす危険性を高めます。

大腿骨近位部骨折受傷後1年後に
なんらかの障害が残っている人が80%、一人で歩けなくなっている人が40%、改善が見られない障害が残っている人が30%、1年以内に死亡している人が20%というデーターもあります。
5年生存は他の癌とほぼ同水準と言われています。
・脊椎圧迫骨折

「いつの間にか骨折」として知られ、2/3が症状が無い無症候性です。くしゃみや尻もちなどのわずかな衝撃で起こることもあります。
背中や腰の痛みを引き起こし、身体が動かしにくくなることで活動量が低下します。
また椎体の変形に伴って、逆流性食道炎や呼吸機能低下も引き起こします。
直接的な死亡リスクは低いものの、活動量の低下から生活の質が下がり、間接的に寿命に影響を与えるとされています。
骨折の連鎖

椎体(背骨)骨折では、その上下の椎体に負担がかかり易くなり、連鎖的に骨折を引き起こす危険性が高まります。
こうなると更に生活の質を大きく低下させるだけでなく、寝たきりや介護状態につながります。
また、結果として寿命を縮める危険性もあります。

症例は70歳の女性です。2018年に転倒して第一腰椎圧迫骨折を受傷されました。その後2021年に少し腰を捻じっただけで腰痛出現、第11胸椎と第4腰椎に圧迫骨折を認めました。幸いこの方はお薬の治療を継続して、その後は新たな骨折を生じておりません。

骨粗しょう症の骨折は、初発骨折直後の1年間では、骨折のない集団と比較して約2.7倍と高く、その後の10年間でも1.4倍と高い状態を維持します。

骨粗しょう症によってあちこちの骨折を招き、2019年の国民生活基礎調査では、要介護になった主な原因の12.5%が転倒・骨折と高率になっています。
死亡リスク

死亡リスクも、健常者より、大腿骨近位部骨折は6.7倍、脊椎骨折は8.6倍と高率です
骨粗しょう症の注意点

骨粗しょう症は「サイレントキラー」と呼ばれて症状がでにくい病気です。
だからと言って他の疾患同様に甘く見ないで欲しい病気です。
検査

まずは骨密度測定を受けましょう。当院でも検査できますし、検査時間は約10分、予約なしで受けられます。
骨粗しょう症は決して他人事ではありません。健康寿命に多きく影響を及ぼす病気です。
高血圧や心臓病、脳血管疾患等と同様に考え、50歳を過ぎたらまずは検査して、その後の生活に注意しましょう。